魔法少女きらライト

 「オタク」と称される存在が居る。彼らは一般的にネットに存在するというレッテルを張られ、何かに熱中して生きている存在。
 「吉良」という青年が居る。一般的にオタクと分類されるカテゴリに位置する青年だ。にわかにミリオタで、にわかに二次元に熱中し、にわかにアニメを見ている。ただ、FPSというゲームにおいては譲れない矜持を持つ。そこそこに「オタク」で、そこそこに「一般的」な青年。
 個性と無個性のコントラストが彩る人間社会において、ギリギリに無個性と分類される程度には無個性な雰囲気で、オタクというカテゴリの枠内に入るという事以外はこれといって語ることのない、そんな男。

 ――だけど。然しながら。

 その日、運命の悪戯か何かの拍子か。もしくは、因果というものが存在するのなら、今まで無個性であった事の裏返しなのか。兎に角、彼は全く以て必要のない個性を手に入れてしまったのだ。
 休日の寝覚め。もうすぐ、昼に到達しかかるであろう頃。それは、玩具で形作られたような本の、羽ペンの様なものをまるで翼のように後背部に取って付けたかのように設置された、自らを妖精と語るナニか。
「やあ、僕の名前はブっくん」
 口調と見た目に似つかわしくない低めの音声を発して、ブっくんを名乗ったそれは話を続けた。
「この世界は魔法界に侵略されている!!」
「は?」
 は?
「だから、この世界は魔法界に侵略されてんだよ!」
 いや、だからどうしたというのだ。お前はなんなのだ。これは何かの夢なのだ!立て続けに、そして声には出さずに頭を抱えるように吉良は思考した。
 もうわけがわからない。魔法界ってなんだ。何処の日朝少女向け番組もしくは深夜アニメの展開だ?俺が何をしたっていうんだ。俺は少女って年齢でも見た目でも性別でもないぞ。ふざけんな。
「そして、君にこの魔法のステッキを送ろう!受け取りたまえ!キモオタ野郎」
 少し謂れのある罵声を受け、苦笑いが更に引き攣ったところ。小規模でメルヘンなエフェクトが目の前を包み、まるで漫画のような星達と虹色の光が霧のように消え去ると、ピンク色で少女チックで如何にもな魔法少女的ステッキが宙に降臨した。
 いや、いらない。
 ブっくんは如何にも、さっさと受け取れといった雰囲気で黙り込み。しばしの沈黙が部屋を包む。
「……いや、これ……さ。あの、受け取らないと、駄目ッスか」
「おう」
 おう、じゃないが。
 話が進まなそうなので、取り敢えず握っておく。すると、俺の周囲を光が包み。何の感触もなく、ただ、自らの身体が変態していく感覚だけが流れていく。痛みは無く、違和感が無い。逆にそれが気味が悪い。しかも、変態している最中は何故か服が消える仕様っぽい。何処に需要がある。
 みるみるうちに変態的な変態が終わり、そばにあった等身大ぐらいの部屋の鏡を見ると、ボーイッシュ気味な、少し釣り目で眼鏡をかけた、中学生ぐらいの身麗しいカッコいい軍服のような衣装を身に纏った少女が。そこには居た。居たのだ。なんでだ。
「なんでだあああああぁああああああ!!!????」
 吉良の頭の中を混乱が包んだ。
「定番だろ?魔法の道具を入手すると初変身」
「いや、そうだけど!?」
 ふう、といった雰囲気でため息を吐いたかのような素振りをブっくんはすると、話し始めた。
「まあ、取り敢えず。君には魔法界から進軍してくる魔法界産の魔法少女を退治してもらう」
「は……はあ」
 事の経緯は今は興味が無いから兎も角として、何で僕なんですか。僕はこれといって運動得意なわけじゃないし、ただの平凡っぽい人間なんですけど。といった趣旨の女々しい愚痴を優也は脳内で吐き出した。
「ふん、今……何で僕なんですか。僕はこれといって運動得意なわけじゃないし、ただの平凡っぽい人間なんですけど。といった趣旨の女々しい愚痴を考えたな?」
 何で分かるんだよ。エスパーかお前は。魔法界はなんでもありなのか。クソッタレ。拍子を突かれて、吉良は思わず心にある事を漏らしてしまった。ブっくんはスルーする。
「はあ……。そんで、何で俺なんだよ?」
「それは、君の妄想力にある」
「はあ?」
 妄想が何で選ばれる理由になるんだ?僕がいつも妄想してて不審者みたいだからですか?ブっくん死ね。魔法界滅びろ。ひたすらに罵倒を吉良はイメージした。
「魔法はイメージなんだよ。初歩的なことさ、吉良君」
 それは魔法界では初歩的なんだろうが、人間界では初歩的じゃないぞ。
「そんで、魔法はイメージ……つまり、その……妄想力が高ければ高いほど凄いってことか?」
「そういうこと。物分かりがいいじゃないか。魔法はイメージだ、負けそうになった時にネガティブな妄想をすれば、それが魔法として現実化するかもしれない。ポジティブな妄想をすれば、都合の良い魔法が起きるかもしれない。妄想はイメージだ。魔法はイメージだ。だから、人間で一番適性があるのが君だと、僕は賭けに出てみた」
「は……はあ」
 つまるところ、信じる者は救われる。魔法とはそういう概念なのだ、とブっくんは語る。賭けに出た語られない背景は兎も角、彼は吉良に賭けたのだという。
「まあ、何だ。適当に魔法少女用の偽名でも考えて、今日は休むといい。整理する時間が必要だろう」
「お、おう」
 ブっくんはそういうと、吉良が握ったままのステッキを念か何かで操作して、軽快に操って振るう。すると、吉良がまたもや変態し、少女の姿から青年の姿へと変わる。
「人間界でちらっと見た漫画を参考にして……そうだな、ライトなんてどうだ?」
 それはもしかして夜神な月君じゃないだろうか。凄く不吉だ。するや否や、何かしらステッキを操作しだすブっくん。どうやら、名前を登録した感じの様だ。そんな機能もあるのか、と優也は驚愕すると同時に、拒否権は無いのか、と呆れた。
 ぼけーっとつったていると、いつの間にかブっくんは何も言わらずに消えていた。ぽつんと、桃色で煌びやかなステッキだけが床に落ちている。
「はぁー……。何だったんだ?」
 少し頭を掻き、そんなことをぽつんとぼやくと、ステッキの方に足を進めて拾い上げた。持ってみると、自然と手の中に納まった。何故か、吉良にあわせたかのように不思議で不気味なぐらいに的確な長さと大きさ。
 おもむろに、吉良はステッキを振ってみる。だが、何も起こる気配はしない。何か条件があるんだろうか?と何故か真面目に考えてみながら、イメージを始めようとした。
 すると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「ふぇっ!?」
 思わず、良い歳しした青年に似つかわしくない、高音気味で間の抜けた声が漏れてしまった。驚きのあまり、慌ててステッキを身体の後ろに隠す。
「おーい、入るぞ」
 そんな無礼なものいいで、傲慢に部屋に侵入してきたのは両親ではなく弟。
 昼飯できたから、いつまでも部屋にいないでさっさと降りろ、と指で示しながら偉そうな物言いで言い終えると、優也の弟はドアを閉めて去っていた。
 しばらくして、静寂を包んだ部屋の中で、苦笑いを受けべながらステッキを隠し続ける男の腹から、空腹を示す音が鳴った。
「飯……取りに行くか」
 もう昼なのか、と小さく呟き、ステッキをベッドの下に隠してから、吉良はリビングに向かったのだった。
「いやー……!面白かったなー、お前の反応!ぷぷっくくっ……くくくっ!ふぇっ!?飯……取りに行くかキリッ!」
「死ね」
 可愛げのない糞みたいな淫獣枠に弄られながら、優也はリビングで入手した昼飯を貪っている。リビングでは家族が、またあいつ部屋で飯食ってるよ、と呆れている頃だろう、と他愛もないイメージをしながら、優也はインターネットで開いたページをスクロールしていた。クリストファーがまだ自分を弄っているが、無視に限る。
 思わず、手が止まった。

 ――渋谷のスクランブル交差点で大混乱!?大霧が起こり、中心地に入れない!?

 適当に開いたニュースサイトで誰かが作ったあまりにも内容の分かり易い見出しと名前の記事。適当にパッと開いて、内容を流し読みする。何でも、スクランブル交差点を渡ろうとすると、気付いたら逆走しているかのように戻されるのだそうだ。主に中心点を基点として、濃い霧が蔓延っており、誰もスクランブル交差点の中心地に入り込めていない。
 ブっくんが黙り込み、食い入るようにパソコンのディスプレイに向かっている。
「これって……魔法界産の魔法少女って奴の仕業か?」
「いや、これは扉だ……だけど」
 扉?とオウム返しに声が出た。
 扉。つまりは、ブっくんの言う魔法界と現実界を繋ぐ場所なのだろう。
「まあ、だいたい。君の想像している通りだよ。スクランブル交差点は一種の儀式の為の魔法陣として成り立っている」
「儀式に……魔法陣?お前の言葉が正しいなら魔法はイメージ何だろ?そんなもんが必要なのか?」
 必要だ、とブっくんは素早く返事をした。
 そして、間髪入れずに説明を始める。
「魔法は確かにイメージだ。生きとし生けるものの想像力、信じる力から成り立っている。だけど、一人分のエネルギーには限界があるんだよ。吉良君?」
「はあ……成程。世界を繋げるレベルには多くのエネルギーが必要ってわけだ?」
「そういうことだ。スクランブル交差点は多くの人が行きかう場所だ。人と人が多く交わり、そして、このご時世に神秘性の高い極東の日本という島国に存在する。スクランブル交差点はシンメトリーに作られていて、魔法陣として利用するには持って来いだ。それを魔法界は利用したわけだな」
 ほーん、と無理矢理頭に放り込めて無理矢理に吉良は納得する。正直、突飛な発想すぎてワケがわからないところだが、魔法界とやらでは普通なんだろうな。と、自分の中で吉良は完結しておいた。
 然し、ぼーっと考えていると、吉良の頭をある疑問が過った。
「ん?でも待て。扉だってんなら、何で押し返されるんだ?閉じてんのか?」
「いや、閉じてはいないだろう。資格の問題だ」
「資格ぅ?」
「そう、資格。魔法がイメージである様に、魔法界もイメージの塊だ。現実世界から生まれる、行き場のないエネルギーが何の因果か形作られ、それが連なり、そして成されたのが魔法界」
「うーん……魔法界が存在するって思っていないと、その先に辿り着けないってことか?」
「魔法界じゃなくてもいいんだ。様は、有り得ないイメージを以てその先に進もうとしない限り、霧を抜ける事はできない」
 成程な、と吉良は記事を確認して納得する。霧の先に走り出した子供が数名行方不明。彼らが何を信じたかは兎も角、その先は詰まるところ、魔法界なのだろう。
 人々のイメージが形作ったその異世界で、彼らの行く末は――。まともな結果は無いだろうな、と吉良はひとりごちる。
「君だけが、この狂騒を止められるんだ」
 それを聞いたか聞いていないか、兎も角。ブっくんは催促するように言葉を紡いだ。
「あぁ……もう!分かったよ!クソ野郎!やりゃいいんだよ、やりゃあ!」
 行き場の無いモヤモヤをぶつけるかのように、髪を無茶苦茶に掻いた。
 吉良はオタクだ。だけど、人間としては無個性だ。つまるところ、善性でも悪性でもない。だが、一般的な日本人として、所謂ところの善行を催促されては、止まれなかった。
 これはヒーロー的な行為なのだろう。もしかしたら、世界を救ってしまうのだろう。身震いがする気がした。背筋がヒヤッとする。あまりにもスケールがデカすぎるのだろう。もう、疑うのも馬鹿らしいぐらいに吉良は証拠を見過ぎた。
「ふぅ……着替えるか。出掛けるぞ」
「目的地は?」
「渋谷、そしてスクランブル交差点だ」
 会って間もない謎の生命体にサムズアップして答える。せめてもの気紛れ。カッコ付けだった。

  • 最終更新:2016-07-01 20:18:43

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