氷崎さんは氷雪系

――氷雪系能力。
能力バトル系の漫画やアニメ、ライトノベルで必ずといっていい程登場する能力だ。
但し、強弱の差が激しく、大抵の場合は所謂「かませ犬」キャラに宛がわれたり、酷い場合は序盤の能力説明や主人公覚醒の為だけに登場させられる事が多い。
 では、氷雪系能力は真に弱いのだろうか?最強足り得ないのだろうか?

――答えは、否だ。

氷雪系能力で汎用的に用いられる言葉「絶対零度」、即ち、超低温は静止の世界なのだ。
事実だけで言えば時間停止すらも可能である。つまるところ、氷雪系は時間系能力の真似事すらもできる汎用性を持つのだ。
 干渉能力?下手に万能だと並以上の知能が無いと真価は発揮できないだろう。常人には利便性が過多すぎる。
 炎熱操作?氷雪系能力でも火傷等は起こせる。それに、出力さえあれば氷雪系で炎を凍らせる事も可能だろう。
 コピー能力?所詮は紛いものだ。
 能力無効化?能力者が能力ばかりに頼ってどうするのだ。真の氷雪系使いならば能力以外に能力のサポートとなる攻撃手段を手に入れるべきだろう。
 創造能力?所詮は創るだけの能力だ。
 闇?だからどうした。
 即ち、氷雪系能力こそがあらゆる能力の頂点に立つ最強の能力なのだと、私は言いたい。

「――と、なるほどなあ。先生は授業中にこういう事を書くのは良くないと思うぞ!氷崎」
 国語科教師丸岡は私が氷雪系能力がいかに強いものなのかを書き連ねた文を音読し終えると、私の机においた。
私は赤面しながら周囲を見渡す。
 隣席の女子生徒は良い笑顔で笑っている。後席の男子生徒は机を叩きながら爆笑していた。
「氷崎さん中二病だったのか。痛いなあ」
「氷崎さんが真顔でノートに何か書いていると思ったら……」
「マジ?氷崎マジ爆笑なんですけど!」
 微笑する者。嘲笑する者。爆笑する者。
 クラス中が笑っていた。丸岡も良い顔しながら笑っていた。私に向かってサムズアップすらしている。

――視界がぐわんとする。周りの音が聞こえているようで、聞こえない。

 私は窓を思いっきり開くと、机の上にあるノートを掴む。
そして、思いっきり腕を振り上げ、ノートを校庭に向かって投げつけた。
「お、おい!氷崎?」
 丸岡の動揺した声が聞こえたが、気にはしない。目尻から何か液体が出ている気がするがどうでもいい。
机の横に下げてあるリュックサックを急いで背負い、思い切り駆けだして私は教室を後にした。










「はあ……はあ……ちくしょう。ぐずっ、皆、私の事を、うぅ……、私の事をぉ!馬鹿にしやがってぇ!うぅ……ぐすっ」
 私が駆け抜けた先は街外れの公園だった。学校からはそんなに遠くないが、平日の昼間にこんなところに生徒は来ないだろう。
無造作に地面に叩きつけられたリュックサックを何度何度も泣きながら蹴りつける。
早起きして母親が作ってくれた手作りの弁当の事等、もはや私は忘れていた。
 一通り鬱憤を晴らすと、私はその場に座り込んだ。スカートが汚れるとかはもうどうでも良かった。
「氷雪系は最強なんだ……最強なんだよぉ……良いじゃないか、夢見たって!」
「うんうん、僕もそう思うよ。夢を見る事は大切だ」
「ふぇ?」
 突然に透き通るような特徴的な声(CV:石田彰みたいな感じ)が響いた。
 完全に油断をしていた私は涙や鼻水を垂らしたまま声のする方向を向く。
 黒髪黒目、平々凡々な顔立ち。改造されていない黒い学ラン。寝癖も無く、変な髪型でもない。長すぎず短すぎない、スポーツ刈りを適当に伸ばした様な頭髪。
容姿という面でいば実に普通と言える。ただ、雰囲気と声だけが際立って異質だった。
 思わず、後ずさる。
「な、何ですか貴方は!何なんですか!?警察呼びますよ!ケーサツ!」
「やめてくれ氷崎さん。流石に補導されるのは嫌だ」
「な、何で私の事知ってるんですか!?ストーカーですか!?」
 知らない男子高校生?に名前を呼ばれたので思わず反応してしまった。
私が通ってる中学の制服はブレザータイプだし、同じ高校の生徒ではないのは確実なのだ。
学生証というか生徒手帳を落としたわけでもないし、ストーカーとしか思えない。
「ふふっ、それはね?僕が干渉能力を持っているからさ」
「は?」
 驚いた、どうやら男子高校生では無く男子中学生だったらしい。
「えぇーと……ストーカーさんは中学二年生ですかね?学校はちゃんといかないと駄目ですよ?」
「中学生じゃないよ!君の一個上だ!そんな可哀想なものを見る目で僕を見ないでくれるかな!」
 全く、とストーカーさんが呟くと突然指を振り始めた。
すると、突然私のリュックサックが宙に浮き、彼の指に合わせて舞うのだ。
 何かの手品だろうか、とも思ったが思いっきり眼を凝らしてもピアノ線やワイヤー等は見えない。
「氷崎雪子。15歳。クラスの担任教師は国語科の丸岡次郎。容姿は地味め。学力身体能力ともに特筆する点なし。授業態度は×。出席日数は毎年ギリギリ。早退多し。」
 お先真っ暗な私のプロフィールを、不敵な笑みを浮かばせながら丁寧に説明されてしまった。
恐らくは記憶に干渉されたのだろう、どうやら彼が超能力者だという事実を信じるしかないようだ。じゃなきゃ逆に怖い。
 では、彼は一体どうやって超能力を手に入れたのだろうか?神様転生者という奴か?チートオリ主なのか?
「超能力というもの自体はね、昔から存在していたんだよ。氷崎さん」
 どうやら思考を読まれたようだ。
「ジャンヌ・ダルクは不完全ながら予知能力の持ち主だった。ガイウス・ユリウス・カエサルは常軌を逸した洗脳能力の持ち主だった。
カエサルの後を継いだアウグストゥスは才能を見抜く超能力を得意とした。ニコラ・テスラは雷電操作が出来、それを持ち前の頭脳で解析した。
沖田総司は身体強化の能力を持っていたが生まれついての病弱な体のせいで活かせなかった。フランシスコ・ザビエルは自身の身体を死後も保てる特殊な再生能力の持ち主だった。
――一般人には認識されていなかっただけでね、歴史の中には幾つもの超能力者が居たんだよ」
 そんな妄想を信じろというのか。
 そして何が言いたいのか。
「信じて貰いたいのさ、氷崎さん。僕は君に惹かれたんだ。君の夢に。氷雪系能力、うん、カッコいいよね。そして強い。でも、皆は何故か見下してくる。大概、扱いも悪いよね。でも、君はそんな能力が大好きで。それを最強だと証明したい、そうだね?」
「はい」
 彼は事実、私のリュックサックを今も操作して振り回し、私の思考すら読んで見せている。
言っている事は意味不明でも、やってみせてくれたのだから信じるしかない。現実は小説よりも奇なり、とはこういう事を言うのだろうか。
「超能力というのは、だいたいの場合は生まれついての体質でしか得られない。だけど、干渉能力なら与える事も出来る」
 彼はそういうと、一瞬で距離を詰め、私の手を力強く握った。
家族以外の男性に手を握られるのは初めてなので、思わず赤面してしまう。

――身体の中に何かが入り込んでくるのを感じる。

 感じた、感じる。身体が満たされていくのが。
思考がクリアになっている気がした、脳が本来使えるべき機能を取り戻したかのように。
 そう、私はついに使えるようになったのだ。氷雪系の能力を――






「おい!氷崎、授業中に寝るんじゃない!」
 バン、と頭を出席簿で叩かれた。あまりにもテンプレートな怒られ方に思わず笑いがこぼれてしまった。
どうやら、夢を見ていたようだ。
 周りを見渡すと、クラス中が暖かい笑いに包まれていた。
丸岡は何事も無かったかのように授業を再開している。
 ここまでテンプレートだと、例の言葉を言わないといけないだろう。
「夢落ちなんてサイテー」
 そう、夢なのだ。

――私が生まれついての氷雪系能力者ではない事実など、存在しないのだから。
そして、この世界に私以外の能力者など、いないのだから。

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  • 最終更新:2016-01-24 19:09:59

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