スカーレット・スパイダーの章

・プロローグ



 僕はただの引き籠りの高校生 出雲 永(いずも はるか)
それで、それで良かった筈だった
今の生活には満足していたし、変えようと思った事なんてない


「――これで…そう、これで良いんだ」


 家族は居ない、母は2年前に事故死
父は一か月前に過労死した。
兄弟や姉妹は勿論居ない

 僕はこのまま、孤独に死んでいく
誰にも見つからず 誰にも触れられず
誰も見ず 誰にも触れないで


「ん?蜘蛛?」


 突如、天井から見たことのない蜘蛛が降ってきた
殺そうと、手を伸ばした時


「いっ…」


 蜘蛛の毒で死ぬ
それも良いな、この蜘蛛には感謝しないと


「―――」


 僕は、そのまま深い眠りについた










・朝


「う…あ…」


 僕が目覚めると
そこは天国でも地獄でも無く
何時もの見慣れた部屋
少し、何時もと違うのは僕自身だった


「何ですかこれ…」


 妙に体が軽い


「…外、久し振りに出るか」


 その前に一週間ぶりに風呂に入ろう
僕が引き籠っている間に、外の世界は

―僕の知らない世界は、どう変わったのだろうか




・外




「う…眩しい」


 頭がチクチクする
脳が僕に知らせている『近くに危険がある』と

どういう事だろうか、まるで人間じゃなくなった様な感じだ
若しかして、あの時 あの蜘蛛の…


「おっ 永じゃねえか」


 喋りかけてきたのは学校で俺を虐めていたグループの一人
醜い顔で笑いながら僕に近づいて、僕の足を踏む


「wwwwwwwww」

「…痛いんですけど」

「あ?」


 僕が反抗したのが気に入らなかったのか
苛々している 醜い顔で


「おい、こっち来いよ」


 僕を路地裏に引っ張り、顔を近づいてくる
絶世の美少女なら嬉しいのだけれど…
此奴一寸口臭いし、最悪だ


「あの…臭いんで離れてくれませんか」

「は?」


 オット、つい口が滑ってしまった 大失敗だな
帰りに本を買って 上手い会話の仕方を勉強しなければ


「テメェ、調子乗りやがっていい加減にしろオラァ!」


 相手が殴り掛かってきた
危ないなぁ

―あれ?手が自然に…



 嫌な音が響いた
それは、骨の砕ける音
僕の拳は奴の顔に当たり、その拳に秘められたパワーが爆発した

相手は漫画の様に回転しながら壁に当たり、鼻と口から血を 目からは涙をだし倒れこむ


「あ…あグァ…うぅ…うぅぁあ」


 奴は、涙を流しながら
この場を去って行った


「ひぃwwwひぃwwwwあっwwwwあっはははははっはははぁ!」


 笑いが止まらない
最高の気分だ
嘗て俺を虐めていた奴が、俺に殴られ涙を流しながら逃げた
傑作だ
ハリウッド映画化出来ないだろうか?


「はぁwwwはぁwww…ふぅ…」


 さて、この力どう使おうか
そうだ、正義のために使おう
正義の為、日本の為 僕はこの力を使う

 ヒーローにはその力に適した衣装が必要だ
先ずは僕の力を調べよう


「―僕は正義になる」


 そう、お母さんもきっと
そう願って居る筈だから

 見ていてよ、お母さん お父さん



・昼


「さて、僕の能力を纏めると」


 結論から言うと僕には蜘蛛の力が備わっていた
蜘蛛のヒーロー…カッコイイじゃあないか

 名前は『スカーレット・スパイダー』
これにしよう、僕に力をくれた赤い蜘蛛さんに感謝しなければ
衣装も赤にしよう
さぁ今から作らなければ

 僕が衣装を作ろうとしたとき
家の呼び鈴がなった
恐らく叔父だろう、僕があの醜い悪を殴ったのが教師にばれて
教師が叔父に知らせたのだろうか


「はい…」

「やぁ、永君 久し振りだね」


 僕の叔父 黒木 侑嗣(くろき ゆうじ)
仕事は警察
僕が今も不自由せずに暮らせているのは叔父のおかげだ
何時も生活費を振り込んでくれる


「何の御用でしょうか…」

「聞いたよ永君 別に君が悪いとは言わないさ、君は理由なく暴力を振るう人間じゃあない」


―何も知らない癖に


「唯、力に物を言わせてはいけないよ?君はちゃんとそこを分かっていると思っていたんだが…」


―わざとじゃなかったんだよ


「あの…」

「何かな?」

「何も知らない癖に、勝手に語らないでくれませんか?」


 驚いてる驚いてる
僕が反論するわけ無いと思っていたんだね叔父さん
でも、僕はそんな人間は卒業したんだよ
僕は変わったんだ 褒めても良いんだぜ?


「…確かにそうだね、私は君の事を何も知らない」

「認めるんですか?」

「認めるさ、別に私は君と一緒に暮らしてるわけじゃあないからね」

「ただ、これだけは言わせてくれ そして心に遺して置いてくれ」


―大いなる力には大いなる責任が伴う


「私が子供の頃に見た ヒーロー映画に登場する人物の言葉だ。丁度君と同じくらいの歳の時に見た」


 大いなる力には大いなる責任が伴う?
そんな事は分かっている ちゃんと責任を持って行動するさ


「それじゃあ、私はこれで帰るよ また来るさ」

「もう…来ないで下さいよ」


 そう、ちゃんと分かっている
分かっているんだよ 僕はちゃんとこの力を正義の為に使う
貴方が拳銃を正義の為に使っているように


「はぁ…全く何なのさ」


 僕は間違ってない僕は間違ってない
俺はちゃんと、僕はちゃんと

正義の為にこの力を使うさ


「さて、衣装作り開始しますか」




・朝


「よし、完成!」


 俺は、朝から夜まで衣装作りをして
夜は、顔を見られない様に気を付けながら悪者退治をしていた
この蜘蛛の力 とても使い易い
然し、使う度に力が衰えていく
何故なのだろうか
因みに、叔父が最近は毎日来る
決まって、同じ台詞を最後に言った後帰っていく

―大いなる力には大いなる責任が伴う

そんなのは分かっている
言われなくても責任が伴う事は知っている


「さぁて、本格的に悪者退治と行きますかな」


 俺はヒーローになる
誰にも負けない最強のヒーローに




・夜


「さて、出掛けるかな」


 俺は自作の衣装を着て、ドアノブを握る
然し、この衣装だけでは味気ない

そうだ、確か叔父が置いて行った服が
お父さんが着ていたという紺色のパーカー
きっと俺の力をもっと強大なものにしてくれる
マスクを被って…準備は終了


「さぁて、スカーレット・スパイダー 出動でございますよ」




・外 路地裏


「ひぃ…や やめてください」


 可愛らしい女の子が暴漢に襲われている
全く、こういう事をする輩は決まって醜い 心も顔も


「良いじゃん良いじゃん 楽しいコトしよーぜ」

「おいおいそのぐらいにしろよ 帰ってその娘で妄想してれば良い物を」


 決まった、女の子も暴漢も驚いている
さぁて、初仕事でござる


「あぁん?何だテメ「た!助けてください!」うるせぇぞビッチ!」


 さぁ、集中しろ
頭から捻り出せ 俺の台詞を

俺は今から、悪魔を狩る正義の英雄だ


「何って、見てわかるでしょ~。幼気な極普通の正義のヒーローですよ 馬鹿なんですか?」

「あぁ?手前 頭大丈夫か?」

「あぁ~っ一寸頭は駄目ですね 貴方の馬鹿が感染して大丈夫じゃないです」

「テメッ…馬鹿にしてんのかァ!」


 あぁ、最高の気分だ
体が震える 鳥肌がヤバい
この震えは武者震いだ

 奴が拳を俺に近づけてくる
一瞬で俺は奴の攻撃を避け
蜘蛛の糸を相手にぶつける


「フゥ―――ッ 悪者退治完了」

「おい!これ取れ!ぶっ殺すぞ!」

「少し黙ってくだちゃーい」


 相手の口を狙って蜘蛛の糸を出す
何か騒いでるみたいだが聞こえないで~す

 おっと、女の子の事を忘れていました
俺としたことが


「さぁ、お嬢さんお逃げなさい」

「あ…あの はい」


 全く中学生であの美しさとは
怪しからん実に怪しからん


「さぁて、俺は隠れ家に逃げるかな 貴方の親愛なる隣人をヨロシク!」


 蜘蛛は蜘蛛らしく
蜘蛛の巣に帰ろう

 後は警察の仕事だ
俺が懲らしめて 警察が逮捕する

実に合理的で良いじゃあないか


「あ…あはっ 親愛なる隣人…かぁ」





・一週間後


 さて、俺が新聞に載りましたよ


「チッ 仕事を手伝ってるのに賞賛の言葉も無しかよ」


 賞賛の言葉どころか悪口ばかりじゃあないか


『夜の街を歩くときは怪しい男にご注意ください 特に紺色の…』

「ニュースでも俺の悪口ばかり…はぁ、良いことをしている筈なのに」

「畜生ッ!」


 あっ、思い切りテーブルを蹴ってしまった
木端微塵だ 買い直さないと



・店の前


「おい!其処をどけ!」


 おっ、強盗ですか
今日は気分が悪いから助けない

 あ、ポリスも居るのか
なら助けん 俺の正義は俺が決める


「おい!そいつを捕まえてくれ!」

「…」


 俺は強盗さんの味方です
どうぞ お通りください


「ありがとな!小僧!」

「おい!お前 何故逃がした!」


―うるさいなぁ 何をしようが俺の勝手だろうが


「クソッ!」


 俺は逃げる様にその場を離れた
自分が正しいと 自分に言い聞かせる為に
彼奴が悪いのだと 自分に言い聞かせる為に


「おい!待て…話はまだ!」

「どうしたんですか?」

「あ、黒木先輩 実は―」





・路地裏


「そうだ…俺には関係ない」


 そう、俺には関係ないのだ
捕まえられなかった彼奴が悪い

俺は関係ない
一般市民の俺に頼るなよ
無能の警察


―俺がヒーローなのは俺がヒーローを演じている時だけだ





・夜


「…気分悪いなぁ」


 蜘蛛の力がとても弱い物になっている 感覚で分かる
体も重い 蜘蛛の糸も少ししか出ない

 俺が何をしたっていうんだクソッ!
蜘蛛の力が無いと俺は何も出来ない
蜘蛛の力が無い俺は雑草と同じだ


「畜生畜生畜生畜生…」


 あぁ苛々する
こんな時は外の空気を吸おう
一回落ち着くんだ




・外


「ん?人が集まってる」


 何かあったのかな
クソッ 人が多くて良く分からない


「あの、何かあったんですか?」

「あぁ、殺人が起きたらしい」


 へぇ、そうなんだ
俺には関係無いや


「何でも殺された奴は警官でな 強盗を追っていて、逮捕寸前って時にその強盗の仲間が来て 後ろからバットで何度も何度も 惨い話だろ。それで、その警官の名前は」


 おいやめろそれいじょうしゃべるな
やめろやめろやめろやめろやめろやめろ



「黒…う~ん、何だっけ そうだ、思い出したぞ!」

 やめろ おもいだすな

「黒木 侑嗣だ!」



―あぁ、どう考えても俺のせいじゃないか


 どう考えても俺が殺したんじゃないか
どう考えても俺が悪いんじゃないか

 何を調子に乗っているんだ
俺がヒーローなのは俺がヒーローを演じている時だけ? ふざけるな、いい加減にしろよ
お前なんかヒーローじゃない
お前はヒーローを気取っていただけの屑野郎だ
思い出せよ、叔父さんが言った言葉を


―大いなる力には大いなる責任が伴う


 お前は責任を持っていたか?違う、お前は調子に乗って 分かっていたのにそんな事も忘れて
結局お前は お前は お前は
お前は、ヒーローじゃなくて 唯の蜘蛛男だったんじゃないか
ヒーローになったつもりで人助けをして調子に乗っていた 唯の哀れな蜘蛛男
哀れだな あぁ、哀れだなお前は
とても可哀想だ 可哀想だな、可哀想な馬鹿だ


「…大いなる力には大いなる責任が伴う」


「ん?どうしたんだい?」


「何でもないですよ」



・屋上


 体が軽い
力が漲ってくる 何故だろうか、とても清々しい気分だ


「ふぅ…集中しろ お前は今から『スカーレット・スパイダー』だ」


 マスクを被り、父のパーカーを着た
僕は今から…一度だけ ヒーローになる
この仕事が終わったらヒーローごっこもおしまい
僕は普通の青年に戻る
だから、これで終わりだからこそ
僕は本気で闘う 僕の住む町を汚す悪を本気で潰す


「いィイイッ アァアアアアアア!」


 東京のビルとビルの間を飛び回り 僕は高らかに叫ぶ
何処だ 何処だ 僕が逃した悪は何処に行った
見つけろ 見つけろ

 おっと、このままだとビルの窓ガラスに突っ込んでしまう
然し、止まらない


「「「うわ!?」」」

「おっと失礼 仕事中のサラリーマンさん達。少し考え事をしていたもので」


 ちゃんと謝ったし良いよね?
さて、僕も仕事に戻らなければ




・廃校舎




「よし、此処なら見つからない」

「然し、相棒 お前 殺人なんかしたが大丈夫か?」

「あぁ、ばれないさ バットも此処で処分する」

「スパイダー野郎も最近は弱くなったし俺だけでも勝てるさ」


 おっと?聞き捨てならんな
僕は今、最高に…


「ハイッて奴なんだぜェエエエエェ!」


 今日二度目のガラスを割っての登場
貴方の親愛なる隣人です
さぁて、お掃除の始まりだ


「ゲッ!スパイダー野郎!どうして此処が」

「慌てるな相棒!こんな奴、楽勝だ!」


 おいおい、前の僕と一緒にしないでくれよ
僕はパワーアップしてスーパー蜘蛛男になったんだ
ただの強盗如きには負けません
僕を倒したければ、超能力者または宇宙人を連れてきてください


「俺はこの仕事が終わったら引退するつもりでね」

「あ?」

「―全力でやるから覚悟しろよ」


 相手に攻撃する時間は与えない
1秒も無駄にするな
動き一つ一つを攻撃に利用しろ

 蜘蛛の糸は無駄遣いするな
1日に30回程度しか使えない
移動するのに20回も無駄遣いした
使えるのは後10回程度だ


「URYYYYYYYYYYYYYィ!どうしたチェリーボーイ君達」

「ひっぃッ!なんだ此奴」

「おい!話が違うぞ!楽勝だったんじゃないのかよ!」

「うっ うるせぇ!」


 おっと、30秒程無駄にしてしまった
これは遺憾な
反省してもっと力を絞り出すかな

 息切れするつもりでやれ
余裕を与えるな
逃げようとしたら糸で捕まえろ

全ての糸を絞り出せ、絶対に動けない様にしろ


「うっ うごけねぇ」

「畜生…畜生…」


 さて、警察署に連れて行くかな
反省したみたいだしね


「それじゃあ警察にレッツゴーだ。悪者サン達」



・朝


「ふぅ…仕事、探さなきゃな」


 生活費をくれた叔父ももう居ない
誰かに寄生する人生はお終いだ
 自分の手で自分の力で生きていかなきゃ行けない


「そういえばお父さんはラーメン屋やってたっけ」


 僕が投げ出したヒーローという仕事も
きっと誰かが受け継いでくれる筈さ

そう、きっと誰かが







・三年後


「聞きました?店長。スパイダーマンまた大活躍したらしいッスよ」

「スパイダーマン…ねぇ、何かダサくないかい?その名前」

「じゃあ店長は、どんな名前がカッコいいと思うんすか?」

「えっと…スカーレット・スパイダーとか?」

「もっとダサいッスよ~」




―スカーレット・スパイダーの章  END



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  • 最終更新:2013-09-12 19:44:05

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