クリスと優也の神隠し

 高速を走る夜行バスの座席に、特筆する程の特徴もない、程ほどに凡庸な男二人組が座っている。
 赤い縁の眼鏡、比較的長く、癖のある髪の方が栗栖。青色の服を好んで着用し、少し髪が短い方が優也である。所謂ところの、腐れ縁に近い関係であった。小中高と、通っていた学校が同じで、クラスも毎回同じであった為、いつの間にか話し合う真柄となり、他愛もなくくだらない話題で盛り上がる程度の仲。
 特に理由もなく、強いて言えば、高校最後の夏休みに何もしないとは如何なものか?というお互いの意見の一致で、田舎でなんかやるか、と二人で旅行に出掛けたのが事の経緯。
 ただ、夜行バスを甘く見すぎていた、と現在二人は悔いていた。先ほどまで、窓側の席で音楽を聴き鳴らしていた栗栖はヘッドホンと音楽プレイヤーをしまい、死んだ瞳で面白みもない流れる夜間の景色を見詰めている。スマートフォンでSNSをしていた優也は、盛り上がる話題も垂れ込む言葉も思いつかなくなり、何か考え事をしていた。
「なあ、おい」
 優也が栗栖に語り掛ける。考え事は済んだようだ。
「なに?」
「なんかさ、ムラムラ、しない?」
 直接的な表現を下げているが、自慰がしたい、と言っているのだろう、と栗栖は解釈する。
「こんなところでするなよ」
 と、適当に返しておく。普段ならば、もっとウィットに富んだ、相手を小馬鹿にするような返しを数秒ほど考えてから返すところであるが、どうも、ストレスが溜まっているらしく、それと、眠気もあり、頭が働かなかった。
「つうか、寝ろ」
「えー……。後ろの奴らうるせえじゃん。それに座って寝れる?お前。寝れたら凄い。俺のお宝本プレゼントしてやるよ。俺的凄いで賞もプレゼントだ、喜べ」
「要らねえよ」
「……殺すか」
 そう、後方の座席でグループを作っているチャラチャラしている集団が騒いでいて眠れそうにないのだ。それがストレスの増加に拍車をかけている。頭髪を染めていたり、身体の至る所にピアスを付けていたり、ファッション雑誌を参考にしたような流行りのファッションを身に着けていて、如何にも最近のアウトローな若者ですよといった感じであり、それに恐れをなしてか誰も注意できていない。一人二人ならば、威勢のいい親父や老婆、マナーに小うるさい社会人等は少し小言を送るだろうが、五六人が座席を陣取って騒いでおり、所謂ところの塵も積もれば山となる、といったところか。つまりは数が多いので袋叩きにされるのも恐れて、誰も注意できてない状況である。
「そういえば、これ。どこ行き?」
 栗栖が思いついたように話題を提供する。黙り続けているとなおさらストレスが溜まりそうなので、ちょっとした気分転換である。
「適当に田舎そうなところをとったから知らん。少なくとも遠いところ?何だっけ、少し前に栃木通ったっぽいよな」
「つまり、わからんと。行き先のない旅ですかあ。壮大な冒険が始まりそうだな……イイね!こういうの、何かいい!」
「お、おう」
 栗栖は妄想癖があり、ポエマー気質である。中二病という誰もが若かりし頃に経験する病が今でも完治していなく、それに高二病がかかり、更に開き直っているので、つまり、痛いやつ。
 唐突に大きな雷が付近に落ち、通り際に大樹が燃えたのが栗栖の視界に移った。大雨も振り出したようで、雨音が軽快に鳴り始めた。
「ん、嵐の夜って感じ?」
 と、ぽつりと栗栖が言葉を漏らした。
「なーんか運悪いよな俺達。厄日?せめて最期に女を抱きたかった、なんつって」
「気味の悪い冗談にもならない冗談はやめろ」
 ブラックジョークはウィットに富んでいて、くすっと笑えるから許されるんだぞ、とどうでもいいこだわりを栗栖が放つ。
「つうか、何かさ。周りの景色おかしくね?」
 小言を無視して、食い入るように窓を眺めていた優也が言った。
 釣られて、いつの間にかスマートフォンを出して弄っていた栗栖も、窓を眺める。
 先程まで人工感溢れる高速だった道は、いつの間にか生い茂る森となり、雨に揺られながら木が強風にあおられて木の葉を落としていた。雨に濡れた鳥がちらりと窓を通り過ぎる。
「森?道、間違えたとか?もしくは、正規で、こっから田舎に突入?」
 と、自分なりに疑問を出しては解釈する。基本的に栗栖は自己完結する人間である。但し、その結果が正しいとは限らない。
「つか、スマホ圏外になってんだけど。どんだけ田舎なんだよ。栃木より田舎かよ?」
 事をSNSに発信しようとした優也が、圏外で繋がらなかった苛立ちも交えて、繋がらない、と報告した。
「栃木ディスは兎も角さ、なーんか疑問がつきないよな。うーん、きさらぎ駅的なことが起こってる」
 きさらぎ駅とは、ネットで有名な怪談話である。十中八九嘘だろうな、と栗栖は思いながらも冗談交じりに引き合いに出した。
「おいおい、気味が悪い。それこそ笑えないブラックジョークだろ。信じてないけど、こんな事が立て続けに起こるとさ、本当っぽく感じない?」
「お前、結構根に持つタイプだよな。知ってたけどさ」
「うるせえ」
 互いに小言を交わしながら、状況について話していく。気を紛らわす為でもあるが、状況を薄気味悪く感じているところもある。さっきから運転手が焦っている姿が少し確認できていて、何事か、関連があるのかと互いに感じていた。
 周りも状況に関して、ボソボソと話している様子が伺える。後ろの迷惑集団も、ネット繋がらねー!等と騒ぎ立てていた。ざわざわとした雰囲気が車内を包み込む。
「あー……何かさ。アレだな、何か起こりそう」
「わかる。何か起こりそう」
 ぽつりと二人は言葉を零した。他愛もない、論理的でもないいつもの雑談染みた言葉。
 瞬間。落雷が夜行バスに狙い澄ましたかのように落ちた。轟音が鳴り響く。

 ――落ちた地点は、丁度、二人の座席を中心としていた。

 数週間後、とある夜行バスが関東近くの森で発見された。死者多数。
その後、二人の都内の学生が旅行に行ったきり、行方不明となる事件も起き、関連付けられた。




「おい!起きろ……起きろって!おい!栗栖!」
 優也に肩を揺らされ、近くで騒ぎ立てられ、睡眠を貪っていた栗栖は目覚めざるおえなくして、目覚めた。
半眼の視界に移ったのは見慣れない森の、幻想的で野生的な風景と、見慣れ過ぎて殺意が芽生える程に見飽きた腐れ縁の男である。
「どこ……ここ、どこ?」
「知らん」
 寝起きで頭が働かなく、寝癖でぼさぼさとなった頭を気にして掻きながら、おぼつかない感じで口から言葉が発された。見慣れた顔の腐れ縁も、寝起きのようで、眠そうに欠伸をした。
 雨は止んだばかりなのだろうか、雲一つない空を仰ぎ見ると、少し虹がかかっている。
「えーと、バスから放り出された、とか?」
 唐突に適当に思いついた、ここに放り出された理由を栗栖が発してみる。

  • 最終更新:2016-06-13 21:12:21

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